いかにして拒食症の治療をスタートするか?②
2014年01月17日拒食症の人に対する初めての診察で最も重要なことは
『どこまで治療への動機づけをあげられるか?』
ということです。
何度も話しているように、拒食症の人は病気の自己にマインドコントロールされています。
「まだまだ太っているぞ」
「少しでも食べたら吐かないと太るぞ」
「100g増えたら大変だ。どんどん太り続けるぞ」
そんな声に脅かされ、本当の自己の心はとても小さくなり、風前の灯火のようになっている人もいます。
そんな本当の自己の心に呼びかけて、どこまで治療への動機づけを上げられるか?
これが治療の成否を分けます。
本当の自己の心に訴えかけるには、2つの方法があるように思います。
ひとつはショック療法のような強いインパクトを与えることです。
まだ摂食障害の怖さについて全く知らない人であれば、その怖さを伝えるだけでも強烈なインパクトを与えます。
例えば、15人に1人は本当に死んでしまうということ。
拒食症のために20才で脳梗塞を起こして半身不随になり、人生の記憶の半分がなくなったような人もいるというような話。
拒食症は一部の癌以上に治る確率が低い難しい病気であること。
これらは脅しのようにも聞こえますが、歴然として向き合わなければならない事実です。
ショックを与えることにもなりますが、だからこそ今すぐに、真剣に治療に向き合わなければならないのだと認識してもらいたいのです。
こうした話をするときには一つのコツがあります。
教科書に書いてあることを読むかのように淡々と話しても実感がわかなかったり、今一つ意味が呑み込めなかったりして、聞き流してしまうことがあります。
だから、できればこれまでの経験を踏まえて、ありありとしたイメージがわくように感情に訴えかけることが大切です。
ただこれまでにどこかで拒食症の治療を受けた人たちは何度かこうした説明を受けています。
すると、人というものはそれがいかに重大事であっても、何度も聞くうちにインパクトが薄れ、重大事という感覚がなくなってくるのです。
そんな人であっても、本当の自己の心に響く可能性のあるアプローチがあります。
それは
『あなたの本当の心を見つめ、人生を見ているんだ』
という視点から訴えるのです。
拒食症はほとんどの場合、自分の力だけで治すことはできず、生きている限り一生にわたって引きずる病気です。
毎日、体重と食事のカロリーのことだけを気にして、人との心のつながりを求めながら、人との心のつながりがなくなり、孤独な人生に陥っていきます。
私は個人的には、たとえ拒食症であっても幸せを感じて生きていけるならそれもよしかなと思うのですが、拒食症と幸せというものは水と油のごとく混じり合うことはありません。
幸せという言葉とは限りなく程遠い人生を歩むことになるのです。
だから、単に食べればいい、体重が増えればいいというような治療をするつもりはありません。
その人が治ったときには「本当に幸せな人生だ」と言えるところまで導きたいのです。
そして、そのように訴えるのです。
拒食症の人が本当に求めているのは、単に食事をして体重が増えることではなく、
「自分を受け入れられるようになって、幸せな人生を生きられるようになる」
ことなのです。
だから、そこに向かって治療をやっていくんだと話すのです。
すると、それまで心を閉ざした人であっても、その言葉に希望の光を見出し、治療に臨まんとしてくれるのです。
どこまで治療への動機づけを上げられるか?
それは病気の自己との戦いでもありますが、その戦いに唯一勝てる可能性があるのは、
『その人の心を見つめ、人生の幸せを目指す姿勢にある』
と思います。