コラム

【医療者の心を守る】医療者の心を守る⑤

2013年11月11日

医療者の心を守る⑤

一般に、対応困難なケースの場合、相手はその話している内容に問題があるのではありません。
ですから、いくら理性的な対応をしても、相手はなかなか納得してくれません。

相手が求めているのは、相手との関係性において自らが優位で、認められる立場になることであり、自らの問題をすべて相手に解決してほしいというものです。
それは理性的なものではなく、感情的なものです。
よって、そうしたことがかなわないとわずかでも感じると、相手を責めて、苦しめることで、自らを優位な立場に置き、その満たされない気持ちを一時的に癒そうとするのです。

こうした悪循環を断ち切り、本当の治療に乗せるのがこの限界設定の真意です。
『“満たされない思いを満たそうとすることにこだわり、本当の治療に向き合えないでいる”相手の土俵から、“本当の治療に導こうとする”医療者の土俵に移す』
ことが重要なのです。
いくら治療を行おうとしても、限界設定によって医療者の土俵に来ていただかなくては、治療を始めることはできません。

この限界設定は医療者にとっても、相手の土俵に巻き込まれて疲弊し、燃え尽きるのを防ぐ効果があります。
但し、この限界設定を治療的に意味あるものにするためには、簡単に相手を見切ってはいけません。
まず相手のために何とかしてさしあげたいという愛の思いを自己確認することです。
本当は愛を持って関わりたいけれども、限界設定をして関わる以外に他の方法がないからあえて厳しく接するというつらさに耐え、相手が気付くのを待つという姿勢が大切なのです。
医療者の心の奥に、相手への愛の思いを自己確認した上で、実践することが重要です。

コミュニケーション技法による限界設定には、医療者の心を守る効果があります。
それはまた、対応困難な患者様の中にある相手を苦しめようとする「偽りの自我」を抑え、自己責任でもって問題解決をしていこうとする「本当の自分」の心を引き出すきっかけを導く方法でもあります。
すなわち、目先の結果ではなく、真なる意味で、患者様の心を守ることにつながります。
よって、対応困難なケースの場合、コミュニケーション技法による限界設定は、医療者、患者様の両者にとって有効な方法となるのです。

 


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