【医療者の心を守る】医療者の心を守る②
2013年11月11日医療者の心を守る②
医療者の心の苦しみは、自殺以外にもいろいろとあります。
そのひとつに治療に関わっている患者様の病気がよくならないということがあります。
医者になったばかりの頃、風邪のようにお薬を飲んで何度か通院すれば心の病気も治るものだろうと思っていました。
しかし、現実はそうではありません。
時間をかけても一向によくならない。
それは、病気そのものが難しいからということもあります。
病気だけでなく、もともとの性格や発達障害などが影響していて、単純に病気だけをみればいいというわけではないということもあります。
さらに正直に告白するなら、医療者によって治療のやり方が大分違うということもあります。
いずれにせよ、病気がよくならないということは、患者様本人にとっても苦しみであるとともに、関わっている医療者にとっても苦しみです。
患者様と向き合う医療者ほどに
「これほどに苦しんでおられるのに、自分は十分に役に立てていない。
本当に自分が関わっていていいのだろうか。
自分は一体、何のために心の医療を行っているのだろうか」
というようなことを考え、悩み、苦しみます。
そうした苦しみに対する医療者の心の対応は様々です。
ある医療者は、自分の心の中で割り切ろうとします。
例えば、
「心の病気というものは脳の病気なのだから、薬で治していくしかない。
だから、自分の役割は薬を調合して出すことであって、それ以上のことはできない」
そのように割り切って、必要以上に相手の心に入っていこうとしないこともあります。
ある医療者は、苦しんでおられる人を前にして自分の無力さに悩み、葛藤し続けます。
「何とか少しでもよくなっていただきたい」と心を尽くす医療者のところには多くの方が集まってきますが、その一方で、自分を責め続けることで心身ともに疲れ果て、最後には燃え尽きてしまう人もいます。
大事なのは、心のバランスです。
患者様の状態が40点の状態とするならば、100点の回復を目指しながらも、100点に満たない“-60点”の部分にばかり目を向け過ぎないことです。
“-60点”の部分を埋めていくことこそが治療です。
しかし、40点の状態が45点になったとき、その“+5点”の部分に目を向けて、そのささやかな前進を大切にして、喜びを共有することがとても大切です。
その姿勢は医療者の心にもゆとりをもたらすだけでなく、相手の心の中にある本当の自分の力を引き出し、回復をさらに促進することになります。
また、医療者は患者様に寄り添うことの価値を知ることです。
悲しみや苦しみの中にあって、ときには絶望しかかっている患者様に寄り添い、その気持ちに理解する存在であろうとするとき、それは患者様の唯一の心の拠り所となることがあります。
たとえ、すぐには十分に相手のお役に立てなかったとしても、寄り添ってその心を理解する存在になることができるなら、その医療者はそれだけで存在価値をなすものではないかなと思います。
患者様の病気がよくならないことで苦しみの中にある医療者は、心のバランスをとることです。
『100点の回復を目指す一方で、わずかなプラスに目を向ける視点を磨く』
『患者様の心を理解し、寄り添う存在の価値を知って、医療者としての存在価値を持つ』
こうした心の持ち方によって、自らの心を守り、さらに患者様のお役に立てる医療者になっていくことだと思います。