【うつ病】薬物治療について②-「うつ病への対応⑥」-
2013年11月11日薬物治療について②-「うつ病への対応⑥」-
薬に関する数々の疑問の中で、
「薬の量が多過ぎるのではないか。もっと少なくできないのか」
という疑問があります。
人間の体は本来、薬に頼ることなく生きていけるものだと思います。
ですから、薬は服用するにしても、少ないに越したことはありません。
しかし、「薬の量を少しでも少なくしたい」という思いにこだわり過ぎて、「病気を治す」という本来の目的を忘れてしまうと、問題が出てきます。
一般に薬物治療では、その病気の状態に応じた必要量というものがあります。
必要量を服用すると、症状は改善し、状態は落ち着きます。
ただ実際の治療現場では、患者さんご自身の焦りがしばしば見られます。
薬物治療においては、副作用の有無を確認するために少量から投与を開始します。
そして、徐々にその量を増やしていきます。
ですから、最初に処方した薬物量は必ずしもその人にとっての必要量ではありません。
けれども、「薬の量を少しでも少なくしたい」という思いを強く持つ患者さんは、最初の量より増やすというだけで抵抗を示されることがあります。
あるいは、薬がいくらか効いて症状が少し楽になると、まだ完全に治っていなくても、「もうこれ以上の薬は必要ない」と判断して主治医と相談することなく、自ら薬の量を調整することがあります。
十数年前、私は総合病院の心療内科に赴任しましたが、そこには数十年にわたって通院し続けている患者さんたちがおられました。
それは決して統合失調症のような長期にわたって薬の必要な患者さんではありません。
自律神経失調症や心身症といった比較的症状が軽いと思われる患者さんたちでした。
なぜそうした患者さんたちが長年通い続けていたのか?
その最も大きな理由と考えられたのが、薬に強い抵抗があって必要量を飲まなかったり、ちょっと良くなると、すぐに自己判断で薬を服用するのをやめてしまったりするということでした。
そうした人たちはいつまで経っても本当に症状が改善することはなく、薬を止めるとすぐに症状がぶり返し、また病院にやってくるということを繰り返していました。
ふと気がつくと数十年という年月が過ぎ去っていたのですが、その原因を振り返ることなく、数十年経ってもなお同じことを続けていました。
こうした神経に作用する薬は、まずその病気に応じた必要量まで増やすことです。
そして、症状をなくすことです。
最初に症状がなくなった段階ではまだ薬によって見せかけ上、症状がなくなっているにすぎません。
しかし、一旦薬の量が必要量に達し、そのまま飲み続けていると、症状は次第に本当になくなってきます。
最初は見せかけだったものが、症状は本当になくなってきますので、その時点でお薬を減らし始めるのです。
そうした治療を行ったならば、多くの場合はいたずらにぶり返すことはありません。
上手く治療が進めば、病気はほぼ完全に治っていきます。
「薬の量を少しでも少なくしたい」という思いにとらわれ、医者が薬漬けにするのではないかという不安にかられると、つい薬の量のことばかりが気になってしまいます。
人間の視野の狭さというのは怖いもので、そのために数十年の人生に影響を与えることさえあります。
しかし、今一度本来の目的を思い出していただきたいと思います。
大事なのは
「病気を治す」
ことです。
薬物治療については今、述べたような治療理論がありますので、それでも疑問に思ったときには素直に主治医に訊いてみることです。
ただ、主治医の雰囲気によっては、どうしても言いにくいこともあります。
そのときには、セカンドオピニオンとして別の病院で相談してもよいかもしれません。
一番良くないのは、自分の判断で薬を調整し、治療が長引いてしまうことです。
薬の量だけに左右されずに、本来の目的に応じて治療を行っていただければと思います。