コラム
【うつ病】うつ病になったときの過ごし方-「うつ病への対応⑨」-
2013年11月11日
うつ病になったときの過ごし方-「うつ病への対応⑨」-
うつになったときには、どのようにして過ごせばいいのでしょうか?
誰もが疑問に思うことです。
普通の人はうつになれば、気分転換をしたり、体を動かしたりするといいのではないかと考えます。
確かに“「うつ病」にまで至っていない”まだ正常なレベルのうつであれば、その通りです。
ストレスなどによって一時的に気分が落ち込み、うつになっていますから、楽しいことに気持ちを向けると元気になったり、体を動かすとリフレッシュできたりします。
しかし、「うつ病」という病気のレベルでは違います。
病気の人と健康な人とでは、基本的に健康になるための論理は違うのです。
「うつ病」というのは活動エネルギーが低下した状態なので、
『休息によってエネルギーを回復させる』
ことが目標です。
徹底的に休息することが必要です。
どのくらい休息すればいいのか?
1日10時間、あるいは15時間寝ていてもかまいません。
うつ病になる人は真面目な人が多いですから、こんなふうに話すと、
「本当にそんなのでいいんですか?」
と言われます。
それに対して、
「これは安心してもらおうと思って言っているのではありません。
少しでも早くよくなるためには、そのように過ごしてもらうのがベストなんです」
と答えます。
「うつ病」になった最初の時期は、寝るなどして休息すればするほどに早く回復に近づきます。
言葉を変えて言うなら、
「まるで“怠け者”のように過ごす」
ことこそがベストなのです。
休息のポイントは、『心の居場所』(2009年8月28日掲載コラム『心の居場所』参照)を確保して休息することです。
学校や仕事を休むことで、体を休めるだけでなく、心を休めることです。
そのためには、「~しなければならない」というような心を捨てることです。
気分転換や運動などをしても意味がありません。
“怠け者”のように過ごすことです。
これらが大事なポイントです。
家にいるとどうしても職場からの連絡がある。
家族が理解してくれない。
こうしたことで家の中に『心の居場所』を見出すことができず、心の休息を図れないときには、入院などによって場所を変えることも意味のあることです。
本当に心からの休息ができたなら、活動エネルギーは確実に回復してきます。
うつ病においては、
薬物治療とともに休息することが非常に重要な治療である
休息にはいくつかのコツがある
ということを知っていただければと思います。
【うつ病】薬物治療について④-「うつ病への対応⑧」-
2013年11月11日
薬物治療について④-「うつ病への対応⑧」-
神経に作用する薬を飲むと、ボーっとしたり、眠気が強くて寝てばかりいることがあります。
それに対して、普通の人の感覚であれば、
「これは薬がきつすぎるのではないか」
「このままでは薬に依存したり、薬漬けになったりしないか」
と思います。
もちろん、普段仕事をしたり、家事をしたり、車の運転をしたりしている人に対して、ボーっとしたり、眠くなったりするようなレベルの薬を出すと支障をきたすのでよくありません。
しかし、自宅療養や入院が必要なほどのうつ病-うつ病に限らず他の心の病気であってもそうですが-の人に対しては、このボーっとしたり、眠くなったりするほどの薬が有用なことがあります。
一般に、うつ病をはじめとする心の病気では、頭の中でマイナスのことをグルグルと考え続けて神経を使い、エネルギーを消耗しています。
神経衰弱となり、エネルギーを消耗すると、自宅療養や入院が必要になります。
そのときに医者からは「ゆっくりと休むように」と言われますが、目が覚めていると、頭の中でどうしても同じことを考え続けてしまい、休息をとることができません。
これでは体を休めても、心は休まらず、本当の休息にはなりません。
そうしたときに薬がその手助けをしてくれます。
治療の初期、ボーっとしたり、眠くなったりするほどの薬を飲んでもらうのは、この
「休息する」
という視点からは、とても意味のあることなのです。
最初の頃は1日に10時間、15時間寝てもマイナスにはなりません。
それだけ休息できていることであり、その方が早い回復を期待できます。
いつまでも寝てもらってばかりでは困りますが、最初の時期に例え、薬を使ってでもゆっくりと休息をはかると、余計なことを考えない分、早く気持ちの余裕を取り戻し、本来の自分を取り戻してきます。
その後、徐々に薬を減らすとよいのです。
ぼーっとしたり、眠くなったりするのは必ずしも悪いことではなく、良い面もあるのです。
【うつ病】薬物治療について③-「うつ病への対応⑦」-
2013年11月11日
薬物治療について③-「うつ病への対応⑦」-
薬の量に関する疑問について、さらに話を続けたいと思います。
一般に患者さんの立場に立てば、薬の量はその錠剤の数で判断します。
患者さんだけでなく、内科医をはじめとする殆どの医者も同様です。
しかし、こと精神安定剤においてそれは正しい判断でしょうか?
こんなエピソードがあります。
以前、統合失調症の患者さんの薬物治療で、どんなお薬を飲んでもらってもなかなかよくならないということがありました。
あまりにも効果がないので、採血を行うことにしました。
その患者さんの体内の薬の血中濃度を調べたのです。
例えば、ハロペリドールというお薬であれば、3~17の範囲の血中濃度が治療の有効域となります。
すなわち、3~17の範囲に達していれば、症状が改善する可能性が高いということです。
しかし、この患者さんの場合、5錠のお薬を飲んでいたにもかかわらず、血中濃度を調べると、1.8しかありませんでした。
要するに、薬が全然効いていなかったのです。
結局、1日に20錠くらいの大量のお薬を飲んでもらうことにしました。
それで血中濃度はようやく9になったのです。
治療効果が表れ始め、それまで全く改善しなかった精神症状が徐々に落ち着いてきました。
普通は5錠のお薬飲んでいれば、血中濃度10~15くらいにはなります。
しかし、この人の場合は1.8しかなく、15~20錠飲んでようやく9なのです。
つまり、薬の量というのは、こと精神安定剤においては必ずしも錠剤の数で判断できないのです。
同じ錠剤の数であっても、体内の吸収には差があり、血中濃度が違ってきます。
薬の量の多寡を判断するのは錠剤の数ではなく、血中濃度なのです。
残念ながら、血中濃度を測ることのできる精神安定剤はごく一部に限られています。
ただ殆どの安定剤において、この原理は当てはまるものだと思います。
ですから、薬の量が気になっても、錠剤の数だけに惑わされないことです。
前回も述べたように、病気を治すのが大事なことであり、そのために必要な量の薬を内服することです。
【うつ病】薬物治療について②-「うつ病への対応⑥」-
2013年11月11日
薬物治療について②-「うつ病への対応⑥」-
薬に関する数々の疑問の中で、
「薬の量が多過ぎるのではないか。もっと少なくできないのか」
という疑問があります。
人間の体は本来、薬に頼ることなく生きていけるものだと思います。
ですから、薬は服用するにしても、少ないに越したことはありません。
しかし、「薬の量を少しでも少なくしたい」という思いにこだわり過ぎて、「病気を治す」という本来の目的を忘れてしまうと、問題が出てきます。
一般に薬物治療では、その病気の状態に応じた必要量というものがあります。
必要量を服用すると、症状は改善し、状態は落ち着きます。
ただ実際の治療現場では、患者さんご自身の焦りがしばしば見られます。
薬物治療においては、副作用の有無を確認するために少量から投与を開始します。
そして、徐々にその量を増やしていきます。
ですから、最初に処方した薬物量は必ずしもその人にとっての必要量ではありません。
けれども、「薬の量を少しでも少なくしたい」という思いを強く持つ患者さんは、最初の量より増やすというだけで抵抗を示されることがあります。
あるいは、薬がいくらか効いて症状が少し楽になると、まだ完全に治っていなくても、「もうこれ以上の薬は必要ない」と判断して主治医と相談することなく、自ら薬の量を調整することがあります。
十数年前、私は総合病院の心療内科に赴任しましたが、そこには数十年にわたって通院し続けている患者さんたちがおられました。
それは決して統合失調症のような長期にわたって薬の必要な患者さんではありません。
自律神経失調症や心身症といった比較的症状が軽いと思われる患者さんたちでした。
なぜそうした患者さんたちが長年通い続けていたのか?
その最も大きな理由と考えられたのが、薬に強い抵抗があって必要量を飲まなかったり、ちょっと良くなると、すぐに自己判断で薬を服用するのをやめてしまったりするということでした。
そうした人たちはいつまで経っても本当に症状が改善することはなく、薬を止めるとすぐに症状がぶり返し、また病院にやってくるということを繰り返していました。
ふと気がつくと数十年という年月が過ぎ去っていたのですが、その原因を振り返ることなく、数十年経ってもなお同じことを続けていました。
こうした神経に作用する薬は、まずその病気に応じた必要量まで増やすことです。
そして、症状をなくすことです。
最初に症状がなくなった段階ではまだ薬によって見せかけ上、症状がなくなっているにすぎません。
しかし、一旦薬の量が必要量に達し、そのまま飲み続けていると、症状は次第に本当になくなってきます。
最初は見せかけだったものが、症状は本当になくなってきますので、その時点でお薬を減らし始めるのです。
そうした治療を行ったならば、多くの場合はいたずらにぶり返すことはありません。
上手く治療が進めば、病気はほぼ完全に治っていきます。
「薬の量を少しでも少なくしたい」という思いにとらわれ、医者が薬漬けにするのではないかという不安にかられると、つい薬の量のことばかりが気になってしまいます。
人間の視野の狭さというのは怖いもので、そのために数十年の人生に影響を与えることさえあります。
しかし、今一度本来の目的を思い出していただきたいと思います。
大事なのは
「病気を治す」
ことです。
薬物治療については今、述べたような治療理論がありますので、それでも疑問に思ったときには素直に主治医に訊いてみることです。
ただ、主治医の雰囲気によっては、どうしても言いにくいこともあります。
そのときには、セカンドオピニオンとして別の病院で相談してもよいかもしれません。
一番良くないのは、自分の判断で薬を調整し、治療が長引いてしまうことです。
薬の量だけに左右されずに、本来の目的に応じて治療を行っていただければと思います。
【うつ病】薬物治療について①-「うつ病への対応⑤」-
2013年11月11日
薬物治療について①-「うつ病への対応⑤」-
心療内科を受診するにあたって、みなさんが心配に思われることのひとつに、“お薬による治療がどのようなものか“ということがあるのではないかと思われます。
「薬は体に大丈夫なのか?」
「薬による治療を行うことで、薬漬けにされてしまわないだろうか?」
「一旦、薬を飲み始めると、やめられなくなるのではないか?」
「カウンセリングなどによる治療はしてくれないのか?」
確かに、それらの疑問は当然のことかもしれません。
西洋医学以外の分野の人はしばしば、「薬は体の害になるからやめなさい」と言います。
先生によっては、ただ症状を抑えるためだけに、ちょっと薬を使い過ぎてはいないかと思うようなこともあります。
一部の薬には、若干の依存性があります。
薬による治療だけしか行わないと言って、心の関わりを積極的には行わない先生もおられます。
何より私自身は医者になるまでは薬による治療が嫌いで、風邪をひいても、熱が出ても出来るだけ薬なしで治そうとしていた人間で、この世界に入ったときには薬による治療の考え方に一定の抵抗がありました。
しかし、医者となり、患者である人たちのより幸福な治療を考えるにつけて、薬による治療の有用性は無視できないものがありました。
もし、薬がなかったら、人の苦しみはどれほどに続くことになるでしょう。
治療には今の何倍、何十倍の時間を要し、ときには一生治ることなく、その人生に影響を与えることもあると思います。
それほどまでに今の薬は優れた効果を有するようになってきているのです。
うつ病はエネルギーがなくなっている病気ですから、ある意味、十分な休息を図ると回復する可能性を秘めていると思います。
しかし、中等度~重度のうつ病のレベルにまで陥ったときには、一体どれだけの休息が必要でしょうか?
薬を使った治療を行っていても、一般的には少なくとも数ヶ月から半年程度の休息は必要とします。
もし薬を使わなければ、数年?
それとも、十数年でしょうか?
いや、その回復しない期間に悲観的な考えがさらに悪化し、落ち込みがひどくなり、回復するのを待ち切れずに、自殺することを考えてしまうかもしれません。
統合失調症という病気の話はまた別の機会に譲りたいと思いますが、もしこの病気に薬を使うことがなければ、その悲惨さはみなさんが悪い意味でイメージする精神病院の姿そのものです。
それが薬の進化に伴って、回復レベルは目を見張るほど変化し、社会復帰できる可能性は高まってきています。
何事もバランスです。
薬だけに頼る治療は、人間の心を見ていないところがあり、ときに問題を引き起こします。
しかし、全く薬を使わない治療は、その人の人生を考えるとき、かなりの不利益をもたらすことになります。
心の問題には話による関わりを行う。
心の問題から生じた脳の故障には薬による治療を行う。
バランスのとれた治療が、現時点では人間を最も幸福にする治療ではないかと思います。
次回は、薬の治療に関する様々な疑問についてお話をしたいと思います。